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青森地方裁判所 昭和23年(行)37号 判決

原告

羽賀銀次郞

外一名

被告

靑森市議会

主文

昭和二十三年九月二十七日、靑森市議会で、された、

(イ)  靑森市選挙管理委員及び補充員を、議長塩谷眞吉の、指名推薦で、決めることに異議ない旨の決議並びに(ロ)同決議に基き、同議長により、選挙管理委員に指名推薦された、相馬甚之助、金原五隆、館田担三、武田信太郞及び同補充員に指名推薦された訴外内野房吉、小田桐秀吉、奥崎励治、坂本敎寬を、各当選人と定めることに同意する旨の決議は、何れもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求める旨申立て、その請求の原因として、原告両名は、靑森市議会議員であるところ、昭和二十三年九月二十七日午後一時十七分、靑森市長の招集による靑森市議会臨時会が開会され、議員三十名がこれに出席し(定員三十六名中四名欠員、二名欠席)先ず、市長の提出にかかる議案七件を審議可決した後、午後五時頃、議長塩谷眞吉、突如議員数名の賛成の下に、「靑森市選挙管理委員及び補充員各四名選挙の件」を提案付議した。その際、その選挙方法につき、議長派議員(民主党員五、六名を中心に十八名を以て「市政同志会」を組織、但し、その際、一名欠席)小石敏夫等が連記無記名投票の、又反対派議員(民主自由党員八、九名を中心に十四名を以て「市政研究会」を結成、但し、その際、一名欠席、なお原告両名も、これに、加入)柿崎酉松等が單記無記名投票の各動議を提出して、互に相讓らず、そこで、議長が、「採決するから、單記無記名投票に、賛成の議員は起立されたし。」と宣したところ、起立した者は原告等反議長派議員十三名だけで、議長派議員十七名は、起立しなかつた。そこで議長は愼重に事態を見極めた上、「單記無記名投票に賛成する議員は十三名の少数であるから、單記無記名投票案は否決され、連記無記名投票案は可決された」旨宣し、直ちに事務当局は連記無記名投票を実施するため、各議員に対する投票用紙の配布に着手し、殆んどこれを、完了した。ここにおいて、單記無記名投票案に賛成した議員原告等十三名は連記無記名投票による選挙を潔しとせず、そのまま退場帰散しために、残留議長派議員十七名も投票を躊躇し間もなく退場離散し、議会は事実上閉会した。然るに、その後同日、午後六時頃同議長は前記反議長派議員十三名に書面で靑森市選挙管理委員の選挙につき決定したいから、本日午後七時までに、会議に、出席されたい。」という催告を発し、同日午後七時五分、議長派議員十八名のみ出席(第一次会議に欠席した議員中村民一も出頭)反議長派議員全部欠席のまま開会、全員一致、靑森市選挙管理委員及び補充員各四名の選出を同議長の指名推薦に一任することに異議がない旨議決し、同議長が、直ちに、該決議に基き、何れも議長派に属する金原五隆、相馬甚之助、館田担三、武田信太郞四名を各靑森市選挙管理委員に、又、内野房吉、小田桐秀吉、奥崎励治、坂本敎寬四名を各補充員に指名推薦し、全員一致、右各被指名推薦者を、それぞれ当該当選人と定めることに同意する旨議決した。

しかし、右各決議には次のようなもろもろの違法がある。

一、先ず、敍上「靑森市選挙管理委員及び補充員各四名選挙の件」は、急施を、要する議案でないから、靑森市長において、予めこれを告示しなければならなかつたに拘らず、これを懈り前敍のように、同議長において、突如これを、靑森市議会臨時会に提出したのは、地方自治法第一〇二條第四項第五項に抵触する。

二、議長派議員十七名が数を賴み、選挙管理委員及び補充員各四名を自派で、独占しようと、企らみ、無暴にも法律上全然不能の連記無記名投票案を固執して、法律上許容された唯一の方法である單記無記名投票(同法第三二條第四一條第一項第四号、なお、この方法によるときは、反議長派議員十三名が結束すれば、自派からも、選挙管理委員及び補充員を各二名宛選出することができる。)案を封じ去り連記無記名投票を実施するため、各議員に投票用紙が配布された以上、反議長派議員原告等十三名は、かような投票に慊焉たらず退場離散したのは、固より、その所で、毫も、その職責を抛擲又は懈怠したものではない。その結果、残留議長派議員十七名(定員三十六名)だけでは同法第一一三條所定の定足数を欠き会議を継続することが、できなくなり、議会はここに、閉会した。從つて、その後議長派議員等において、連記無記名投票の違法無効であることを悟り、別途の方法で、敍上選挙管理委員及び補充員を選出しようとすれば、須らく、同法第一〇一條第一〇二條により会期日及び議案が、予め議員に告示された新議会で、これを、議決しなければならない。仮りに右議会がまだ閉会していなかつたものとしても、議長は須らく新会期日及び議案を各議員に通知しなければならない。(靑森市議会会議規則第一〇條、第一一條、第一五條、第一八條、第三一條の綜合趣意)然るに前敍のように同議長は、同日午後六時頃前敍退場帰散議員十三名に「靑森市選挙管理委員選挙につき決定したいから本日午後七時までに会議に出席されたい。」という催告を発しただけで、既に、可決された連記無記名投票を強行する趣意か、又はこれを、取り止め、その他の新方法を提案審議する趣旨かは、全然、明確を欠き、否、素直に、これを想像すれば、連記無記名投票を強行する趣旨と解する外はなかつた。ところで、今、若し右催告書に連記無記名投票はこれを取り止め、それ以外の選出方法を提案、審議する趣意が明記され、且つ該催告書が時期に後れず、退場帰散議員逹十三名に、到逹していたならば、これらの議員は必ずや揮つて新議会に出席していたであろう。蓋し所謂指名推薦は、議員中一名でもこれに異議を述べた場合には全然これによるを許されないから(地方自治法第一一八條第二項)今若し、反議長派議員等が出席していたならば、たとい指名推薦動議がでても必ずやこれに異議、を述べこの方法による選挙を不能にし、結局残された唯一の方法であり且つ自派に有利な單記無記名投票に導いたであろうことは容易に想像することができたからである。

然るに、前敍各催告期間は短きに失し、反議長派議員十三名が定刻午後七時までに靑森市寺町四十六番地靑森市議会会議場に到着することは至難であつた。殊に議員柿崎酉松は右会議場から約一里半離れた、同市大字油川字浪岸二十六番地に居住し、当時、雨天且つ夜間のため、車馬の便がなく、同議員が徒歩で自宅から会議場に到るには少くも一時間半を要したであろうところ該催告書は同日午後六時二十分頃同議員の留守宅に送逹されたから、仮りに、同議員が、在宅していたとしても、午後七時までに会議場に到逹することは到底不能であつた。即ち再度の会議は適法な招集告知手続を欠如したまま、開かれた瑕疵があり到底違法たるを免れない。

三、立法者が、普通地方公共團体の議会において、行う選挙について、議員中に異議がないこと及び被指名人を当選人とすることに議員全員ガ同意することを條件として、指名推薦方法を用いることを、許容した所以のものは、要するに、議会で比較的責任の軽い役員を、選挙するには、兎角手数を要する單記無記名投票などに、よるよりも、一定の條件の下に、特定人の指名推薦に一任する方が、簡易、手軽で別段弊害を伴わず且比較的衆意を反映させることができると考えたからであるが、各種選挙の明朗公正のため嚴正衡平にその機能を発揮しなければならない選挙管理委員会の構成員の人選を特定人の指名推選に委ねることは、全然法律の予想しない所であり、指名推薦に関する同法第一一八條第二乃至第四項は、同法第一八二條所定の選挙管理委員及び補充員の選挙に適用することができないものといわねばならない。

四、仮りに適用ができるものとしても本件指名推薦方法採用是認決議及び被指名人当選同意決議は、数を賴む議長派議員十八名において、選挙管理委員及び補充員全員を自派で独占しようという野望から、反議長派議員十三名に碌々、出席の機会を與えず、愴皇として、夜間、自派のみ出席して会議を開き、敍上のように選挙管理委員及び補充員の選定を議長の裁量指名に一任し、議長をして、自派に属する人逹だけを、選挙管理委員及び補充員に指名推薦させて、その非を遂げたもので敍上両決議は、應に同法第一八二條第四項第五項同法施行令第一三四條乃至第一三六條に抵触する。よつて、敍上のように、選挙管理委員及び補充員を指名推薦方法で、決めることに、異議がない旨の決議及び被指名人を当選人と定めることに、同意する旨の決議の各取消を求めるため本訴に及ぶと陳述し

(一)  被告の本案前の抗弁に対し

(イ)  指名推薦自体は固より投票ではないから同法第一一八條に所謂投票の効力に関する異議、從つて又、該異議に対する決定というようなものは凡そあり得ない。從つてこれらの行政行爲の存在を前提とする被告の抗弁は当らない。

(ロ)  仮りに本訴の提起が、敍上異議及び該異議に対する決定を、前提要件とするものとしても、再開された市議会が反議長派議員原告等十三名欠席のまま、閉会したからこれらの議員が同議会で異議の申立をすることは固より不能事であり、その後昭和二十三年十月五日から昭和二十四年一月二十三日までの間に施行された、靑森縣敎育委員会委員選挙及び衆議院議員選挙外二個の選挙の各施行に当り、上敍被指名人逹は当該選挙管理委員又は補充員としてその職務を執行したから今これらの執行の前提手続の違法不当を攻撃して執行前の状態を回復するは、事実上、至難の業であり、まして、豈んや数を賴む議長派議員等が異議に対する審判に衝る以上、たとい、反議長派議員原告等において異議の申立をしてみても、所詮該申立が却下の運命を免れないことは必至であり、かような場合こそ、応に、行政事件訴訟特例法第二條但書に所謂異議手続を経由しないで出訴するにつき、正当な事由がある場合に、該当するものと、いわねばならないから、異議手続を省略して提起した本訴は固より適法である。

と附陳し、立証として、甲第一、二号証を提出し、証人秋谷良之助、関德次郞、田村栄一、櫻庭孝、河津善四郞、塩谷多三郞、〓西正雄、柿崎酉松(第一、二回)山田寅三の各供述及び原告奈良源藏(第一、二、三回)羽賀銀次郞各本人訊問の各結果を各援用し、乙第一号証の原本の存在及び同号証が、その写であることを、認めた。

被告訴訟代理人は、先ず本案前の抗弁として、訴却下の判決を求め、その理由として原告等主張の各決議の効力に関する異議も畢竟、同法第一一八條第一項に所謂、投票の効力に関する異議に外ならないから、かような民議を潔しとしない議員は、先ず市議会に、異議の申立をして、決定を受け、該決定に不服ある場合に、始めて、市議会を、被告として、裁判所に出訴することができるに過ぎない。然るに、本訴は、かような、異議手続を経由しないで、直接当裁判所に、提起されたものであるから、行政事件訴訟特例法第二條に抵触し、到底、不適法として却下される運命を、免れないと述べ、

本案請求に対し、

原告等の請求は、これを棄却するとの判決を求め、答弁として、原告両名が靑森市議会議員であること、靑森市長の招集により、昭和二十三年九月二十七日午後二時十七分、靑森市議会臨時会が開かれ、議員三十名出席(定員三十六名中四名欠員、二名欠席)議案七件を審議可決した後、午後五時頃、議長塩谷眞吉が「靑森市選挙管理委員及び補充員各四名選挙の件」を提案付議したこと、議員柿崎酉松が單記無記名投票の、又議員小石敏夫が連記無記名投票の各動議を提出し、議長が「單記無記名投票案に賛成する議員は、起立されたし」と宣促したところ、原告両名を含む議員十三名が起立し、間もなく右十三名が退場したこと、同議長が右退場議員等に、原告等主張のような催告書を発し、同日、午後七時五分再会、出席議員十八名、議会が、議員中に異議がなかつたから、右選挙につき、指名推薦の方法を用いることに決し、議長が、原告等主張の人逹をそれぞれ、靑森市選挙管理委員及び補充員に指名し、被指名人を、当選人と定めるべきかどうかを、会長に諮つたところ、議員全員がこれに同意したことは、各これを認めるが、爾余の事実は、全部これを否認する。

(イ) 本件靑森市選挙管理委員及び補充員選挙の議案の付議権は議員だけが、これを有し靑森市長においてこれを有しないから同市長が予め、該議案を告示する必要はなかつた。仮りに同市長において、敍上権限を有するものとしても、当時、靑森市選挙管理委員及び補充員の任期満了は三日後の同月三十日に迫り、且つ同年十月五日は靑森縣敎育委員会委員の選挙施行期日であつたから、敍上委員及び補充員の選挙は、眞に急施を要する案件であり、なお、開会当日午前中、該選挙につき出席議員全員が長時間に亘り非公式に懇談を重ね、各議員は当日敍上選挙が行われることを克く了承していた次第でもあるから、同市長において上敍付議事項の告示をしなかつたからとて、毫も違法ではない。

(ロ) 議員の提出する動議は、これにつき、議員二名以上の賛成がなければこれを、議題とすることができない(靑森市議会会議規則第一九條)ところ、敍上單記無記名投票及び連記無記名投票の各動議は何れも議員各一名のみの提出に係り、これにつき議員各二名以上賛成しなかつたら、本來議題とすることができなかつた。また、議題を可決するには、議長において、その結果を、宣言するを要する(同規則第二八條)ところ本件において出席議員三十名中同議長の求めにより、單記無記名投票案に賛成する議員十三名が起立しただけで、同議長がまだ全員に「連記無記名投票案に賛成する議員は起立されたし」と促さず、從つて又、まだ「單記無記名投票案否決され連記無記名投票案が可決されました」と宣言しなかつたから両議題は何れもまだ否決又は可決される運びに至らなかつた。然るに、前記單記無記名投票案に賛成して、起立した議員十三名は、爾後の審議継続義務を盡さす、これを抛擲して無断、一齊に退場し出席議員数が定員の過半数十八名に一名不足を告げるに至つたから、議会は事実上、延会乃至流会するに至つた。しかし、固より閉会したものではない。從つて、その後同日午後六時頃前会議に欠席した議員中村民一が出席し、出席議員が定員の半数に逹したから午後七時五分再会運営されたもので、恰かも、定足数の議員が出席の下に会議中一名の議員が所用のため一時中坐し定足数を欠くに至つたため、その間同一議事が事実上停頓したが待つ程もなく他の議員一名が出席したため、会議が再び進行を始めた場合と一般再会後の議会は適法に構成運営されたものである。

仮りに右議事の進行が、右設例の場合と同様でなかつたとしても同議長は同日午後五時右退場議員十三名に前敍のように、同日午後七時までに会議に出席するよう催告状を発し、該書面は、遅くとも、同日午後六時、前記退場議員十三名に送逹されたに拘らず、同議員等はその職責を軽ろんじて一名も出席せず、なお、右催告状に「選挙管理委員選挙につき決定したいから会議に出席されたい」とある以上、該選挙が單記無記名投票によるか、その他の方法によるかはこれを具体的に記載する必要は全然存しない。

從つて、再会後の議会でされた本件指名推薦を中心とする一連の手続は全部適法妥当であり、原告等の本訴請求は失当である。

仮りに右手続が一應違法であるとしても、その後同年十月五日施行された、靑森縣敎育委員会委員六名の選挙、同年十月二十日施行された靑森市農地委員補欠一名の選挙、同年十一月三十日施行された靑森市農業調整委員十五名の選挙、昭和二十四年一月二十三日施行された衆議院議員第一区四名の選挙に際し、前敍指名人相馬甚之助、金原五隆、館田担三、武田信太郞は、何れも、靑森市選挙管理委員(相馬甚之助は委員長)としてまた、丙野房吉、小田桐秀吉、奧崎励治、坂本敎寬は何れも補充員として、法定の職務を執行し又は執行する態勢にあつたから、今、本件各決議を取消すときは、これら各種の選挙における投票若しくは当選の効力に重大な影響を及ぼし到底收拾することができない混乱を惹起し、延いて公共の福祉を毀害することが甚しいから原告等の請求は相立たない。

と陳述し立証として、乙第一号証を提出し、証人奈良卯一郞、三上保眞、天内重一、三上惣之〓、相馬甚之助の各供述、被告代表者塩谷眞吉本人訊問(第一、二回)の各結果を各援用し、甲第一、二号証の成立を認めた。

理由

よつて先ず防訴抗弁につき按ずるに、地方自治法第一一八條第一項に所謂投票の効力に関する異議とは、單に、法律又は政令により、普通地方公共團体の議会において行う、選挙の投票自体の効力に関する異議ばかりではなく、廣く該選挙による当選の効力に関する一切の異議を包含指称することは、同條及び同法第一七六條を通覽対比するに殆んど疑を容れる余地がないから、同法第一一八條第二項に所謂、指名推薦方法採用無異議表現(議員全員に異議がないということは私法上の理念では一見議員全員が賛成又は同意する場合と異り、効果意思を伴わないようにも観えるが、少くとも公法上の法律関係に関する限り、矢張り効果意思を包含し、実質上、承認又は同意、從つてその決議と選ぶ所がないものと解するを正当とする。)の効力に関する異議及び同條第三項に所謂「被指名人を当選人と決定することに同意する」決議の効力に関する異議をも包含呼称するものと観するを妥当とする。

果してそうだとすれば、他に特別の事情がない限り、原告等はその主張のような各決議につき不服がある以上、同條第一項により、先づ靑森市議会に異議の申立をし、これに対する決定を受け、該決定についても、なお、不満がある場合、ここに始めて、裁判所に、出訴することができるものというべく、然るに、原告等において、その主張の各決議の効力に関し、まだ敍上異議手続を経由していないことは、原告等の認める所であるから(尤も、かような異議申立及びこれに対する決定については成法上何等制限がないから、最終事実審の判決に接着する口頭弁論までの間に、これらの手続が完了すれば足る。)他に特段の事情がない限り本訴は一應不適法として却下される運命を免れない。ところで原告主張のように、本件訴訟物たる各決議がされた再開議会がこれらの決議に承服しない議員原告等十三名、欠席のまま閉会されたことは、成立に爭がない。甲第一、二号証を綜合してこれを認めるに足り右認定を覆し得る証左は一もないから、これらの議員が、同議会に異議の申立をすることは固より不能であり、又その後昭和二十三年十月五日から昭和二十四年一月二十三日までの間に施行された、靑森縣敎育委員会委員選挙及び衆議院議員選挙外二個の選挙の各施行に際り、原告等主張の指名推薦による被指名人等が当該選挙管理委員又は補充員として、その職務を執行したことは証人相馬甚之助の供述に照し明白であり、右認定を左右するに足る証拠は更にないから、今更これらの執行の前提手続たる本訴各決議の違法を攻撃して靑森市議会にこれが取消を申立ててみても、審判者が敍上各決議をした議会自体である限り勝算は到底覚束なく、他方又、証人柿崎酉松(第一、二回)の供述により明瞭であるように、本件各決議をした議員がこれに不満を抱く議員よりも遙かに多数であつた以上、所詮異議申立が同議会で却下される運命を免れないことは想像するに余りがあり、かような場合こそ應に行政事件訴訟特例法第二條但書に所謂異議手続を経由しないで出訴するにつき正当な事由がある場合に該当するものといわねばらないから異議手続を経由しないで提起された本訴も固より適法であり被告の抗弁は採用するに由がない。

よつて進んで、本案請求の当否につき審究するに、地方自治法第一七六條及び第一八三條(但し、昭和二三年一二月一日施行された同年法律第二一六号により普通地方公共團体の選挙管理委員の任期二年は三年に延長された)は、普通地方公共團体の議会の議決又は選挙が法規に抵触すると認めるときは、当該地方公共團体の長は、議会に再度議決又は選挙をさせ、新議決又は選挙も、依然違法であると認める場合には、議会を被告として、裁判所に出訴することができ、該判決が確定するまでは、選挙管理委員及び補充員がその職を失わない旨規定し、一見敍上なような出訴権は、普通地方公共團体の長だけがこれを有し、その他の者は、議会の議員でもこれを有しないように観えないわけではないが、普通地方公共團体の長が、敍上議決又は選挙により、地位、権利、若しくは利益を、享受した人逹と結托し、否、結托しないまでも、これらの人逹に同情好意を寄せ又は平地に風波を捲き起し自己の立場を危殆に陷れることを、避けたいという氣持から、敍上出訴の責務を故意に若しくは漫然懈怠し優柔不断、曠日、彌久、荏苒拱手傍観する場合には、少くとも、当該議会の各議員も、一定の手続(同法第一一八條)を経て、これらの決議又は選挙の効力を訴訟により爭うことができるものと解さねばならない。論者或は、敍上議員の出訴権を否認し設例の場合にも議員において、唯、普通地方公共團体の長を被告として、同法第一七六條所定の行爲をするよう督促訴求することができるに過ぎないというであろう。しかし、これでは、議員が幸にして該爭訟で勝訴しても、敗訴の普通地方公共團体の長が、判決に服從して同法第一七六條所定の手続を有効適切に履践し、所期の成果を挙げるまでには、更に、幾多の、日子、年数、経費を要し少なからざる困難に逢著しなければならないから、目的逹成前に既に委員又は補充員の任期が満了し前顯勝訴判決は毫も実益がなく、結局万事手続の空轉に終始しなければならないであろう。法律がかような珍奇な現象を予想したものとは固よりいうことができないから、議会の議決又は選挙に違法不当の廉がある場合には、当該普通地方公共團体の長ばかりでなく、各議員も亦その取消変更訴訟を提起することができる適格を有するものと解するを相当とし、上敍同法第一七六條及び第一八三條の規定は本件のような訴訟の当事者たる適格をただ例示的に挙げたに止まり、毫も制限的に律したものではないといわねばならない。

果してそうだとすれば、原告両名が、靑森市議会議員であることは被告の爭わないところであるから、原告等は、本訴請求の原告たる適格を有することは勿論である。

次に、靑森市長の招集により、昭和二十三年九月二十七日午後二時十七分、靑森市議会臨時会が開かれ、議員三十名が出席(定員三十六名中四名欠員、二名欠席)、議案七件を審議可決した後、午後五時頃議長塩谷眞吉が「靑森市選挙管理委員及び補充員各四名選挙の件」を提案付議したことは、当事者間に爭がない。原告等は右提案付議は、地方自治法第一〇二條所定の予告をせずしてされたものであるから違法であると主張し、該提案付議が同條所定の予告欠缺のままされたことは被告の認めるところであるけれども、当時靑森市選挙管理委員及び補充員の任期満了は三日後の同月三十日に又靑森縣敎育委員会委員選挙は八日後の同年十月五日に何れも迫つていたばかりでなく、本件会議当日午前中、出席議員三十名が本件選挙につき相当長時間に渉り、非公式に意見を交換したことは原告本人奈良源藏(第一、二、三回)の各訊問の結果に成立に爭がない甲第一、二号証を参酌するにより、これを推認するに難くはないから、本件付議事件は洵に急施を要する議題であり、且つ靑森市長が豫めこれを各議員に告知しなかつたからとて、必ずしも、各議員の審議協賛に格別の支障を及ぼしたものとも認められないから、同法第一〇二條第五項の趣旨もあり、右予告欠如を以て強ち違法不当視することができないものといわねばならない。

次に前敍提案付議に対し、議員柿崎西松が單記無記名投票の、又議員小石敏夫が連記無記名投票の各動議を提出したことは、当事者間に爭がなく、右各動機の提出に議員少くも二名以上が賛成したことは成立に爭がない甲第二号証、証人柿崎西松(第一、二回)原告奈良源藏本人訊問(第一、二、三回)の各結果を綜合してこれを肯定するに足り、被告の挙示援用に係る全証拠を以てしても右認定を搖るがすに足りないから、右各動機は、靑森市議会会議規則第一九條に適合し有効に成立したものというべく、そして同議長が「單記無記名投票に賛成する議員は起立されたし」と宣べ促したところ、原告両名を含む議員十三名が起立したけれども、残議員十七名が起立しなかつたことは当事者間に爭がなく、そこで同議長は、愼重に事態を見極めた上、單記無記名投票案に賛成する議員は十三名の小数であり、連記無記名投票案に賛成の議員は十七名の多数であるから前者は否決され後者は可決された旨宣し間もなく、事務当局が連記無記名投票を実施するため各議員に対する投票用紙の配布に着手し該用紙が議員三十名中既に十五、六名に配布されたことは、成立に爭がない甲第一、二号証、証人秋谷良之助、関德次郞、田村栄一、櫻庭孝、河津善四郞、塩谷多三郞、〓西正雄、柿崎西松(第一、二回)山田寅三郞の各供述及び原告奈良源藏(第一、二、三回)羽賀銀次郞各本人訊問の各結果を綜合してこれを認めるに足る。被告は「單記無記名投票案に賛成する議員十三名が起立の後同議長が、更に連記無記名投票案に賛成する議員の起立を求めその結果を見極めた上、両案の可決否決を宣言するまでは連記無記名投票案が可決されたものということができない」と主張し、被告代表者塩谷眞吉本人(第一回)はやや、これに吻合するような供述をしているけれども、議長が、彼此相異る動機の一に賛成する議員に起立を求めたところ起立した議員が起立しなかつた議員より少数であり、議長がその旨宣言した以上起立した議員の賛成した動機が否決され、起立しなかつた議員の賛成した動議が可決されたものと看るは寧ろ常識で議決完了の時期を律した靑森市議会会議規則第二八條第一項もこの趣旨を闡明したものに止まり、所論のように屋下屋を架し無用の手続を繰返すことは成法の要求しない所であり、又、議会審議の慣例常則にも副わないものといわねばならないから、被告の抗弁は、採用の價値がない。次に証人柿崎酉松(第一、二回)の供述、原告奈良源藏(第一、二、三回)羽賀銀次郞各本人訊問の結果を綜合すれば、前敍單記無記名投票案に賛成して起立した議員十三名は、何れも、民主自由党員八、九名を中心に議員十四名を以て組織する「市政研究会」所属の議員であり、又連記無記名投票案を支持して起立しなかつた議員十七名(中議長一名は地方自治法第一一六條により、議員として議決に加わらないが結果に影響を及ぼさない)は何れも、議長塩谷眞吉外民主党員五、六名を中心に議員十八名を以て結成する「市政同志会」即ち議長派所属の議員であり(尤も議員相馬甚之助は、当初「市政研究会」所属議員であつたところ、靑森市選挙管理委員長に選任されたいとの野心を抱き、本件選挙に際し議長派に寢返つた。)平素、議会の運営につき、兎角両両相対峙して譲らず、結局議員の過半数を擁するため勝を制していた議長派議員十七名が数を賴み本件選挙管理委員及び補充員を自派又は自派に比較的協調する人逹を以て独占しようとして、敍上のように連記無記名投票案に加担し、反議長派議員十三名はこれに拮抗して、自派又は自派に理解ある人達をも若干名選出し、小数派の利益を擁護しようとして、單記無記名投票案に賛成したところ、敍上のように、後者が否決され投票用紙が議場に配布されたため、右十三名は連記無記名投票に加わるを喜ばず一齊に退場離散したことを肯認するに足り、右認定に反する被告代表者塩谷眞吉本人訊問の結果は前顯各証拠と対比して到底そのまま措信し難く、その他被告の全立証を以てしても右判断に懷疑の念を拘かせるに足りない。

思うに(イ)本件選挙を、議長派議員等の主張するように、連記無記名投票により、施行するときは、議長派議員中十七名中十六名(残一名は議長であるから、議員として、議決に加わる権利を有しない)が結束しさえすれば、本件選挙管理委員及び補充員の各候補者各四名全員を、自派から立て候補者一人につき十六票宛投ずることにより全員を当選させることができるに反し、反議長派議員が十三名では如何に團結し且つ自派から立てる右委員及び補充員の候補者の数を僅か各一名に限定してみても、各候補者につき高高十三票を投ずることができるに過ぎず、竟に一名をすら当選させることができない。反之、今(ロ)本件選挙を反議長派議員等の希望するように、單記無記名投票により施行するときは議長派議員十六名が如何に一致團結してみても、自派から敍上各候補者二名を立て、一名に八票宛投じ委員及び補充員各二名を当選させることができるに過ぎず、右各候補者を三名に增すときは、この三名に、六票、五票、五票宛投じ矢張り各二名を当選させ得るに止どまるけれども以上二個の場合反議長派議員十三名が協議の上、自派から各候補者二名を立て、この二名に七票、六票を投ずることにより各二名を当選させることができることは極めて明瞭である。即ち本件選挙を、議長派議員等の切望したように、連記無記名投票により施行するときは、委員及び補充員の各定員各四名計八名中、議長派議員等から推薦された候補者八名が全部当選し、反議長派から推挙された候補者は一名すらも当選することができないに反し、本件選挙を反議長派議員等が強張したように單記無記名投票により施行するときは、議長派議員等から推薦された候補者は多くとも計四名(委員及び補充員各二名)だけ当選するに過ぎず、これと同様、反議長派議員等から擁立された候補者も計四名(委員及び補充員各二名)を当選させることができ、結局選挙場裡における成積は両者において互角平等であり、それ以上でも亦以下でもあり得ない。法律(地方自治法第一一八條第一項、第三二條、第四一條第一号、第四号)が本件選挙のように、法令により、普通地方公共團体の議会で行う選挙は須らく單記無記名投票によらねばならない、二人以上の候補者の氏名を記載した投票を無効とすると規定した所以のものも、要するに、多数党の横暴壟断を予防又は調節し、小数派の権益をも加護伸張させ、よつて以て公正明朗な選挙を運営させようとする趣旨に外ならないから、敍上のように、本件選挙方法の選択につき、議長派の議員等が選挙管理委員及び補充員各四名全部を自派の推薦する候補者を以て独占しようという魂胆から無暴にも、反議長派議員原告等十三名の主張する適法妥当な單記無記名投票案を否決し、逆に議長派議員十六名の賛成する法律上不能無効の連記無記名投票案を可決して、今、將さに連記無記名投票を実施しようとして、議場の議員等に、投票用紙を配布した以上、反議長派議員十三名がかような投票をすることを潔しとせず、その不法を鳴らして、そのまま、議場から退去帰宅したからとて、一應、無理からぬ自然の成り行きで、他に特段の事情がない限り審議遂完義務を懈怠抛擲してその職場を離脱したものと非議するを得ないであろう。尤も靑森市議会会議規則第四條は、議員は会議中濫りに議場を退去することができない。己むを得ない事由により、退去する場合でも議長の許可を受けなければならないと規定しているけれども、これは議会が適法に成立し、議員が議場で審議に賛画協力する等、責務を遂行する地位又は雰囲氣に措かれているに拘らず、敢てこれを果さず、職域を離れて自恣行動に出でようとするを調整し議事の円滑な進行を図ることを目的とする規定で、敍上のように議場で過半数を制する議員等が不純な氣持から議長と通謀して法律の嚴禁する選挙方法を反対派議員達に強制して、これらの議員が法律の要求する職務を執行することを頭から封じ去らうとしたため、これらの議員が、これに慊焉たらず、これに盲從することを峻拒する氣持で、議長の許可を受けずして議場から退散する場合に適用すべき限りではない。

そして以上のように出席議員の一部が眞に己むを得ない事情により議場から退去したため、残留議員だけでは、定足数を欠如するに至つた場合は、固より地方自治法第一一三條但書に所謂「定足数に充たない数の議員だけで審議ができる場合」の何れにも該当せず、又所論のように「定足数の議員が出席して会議中一議員が、所要のため、一時中坐し、定足数を欠くに至つたため、その間同一議題の審議が一時停頓したが、間もなく他の一議員が出席し、定足数を取戻したため、会議が再び進行を始める場合」と全然その趣意を異にするから、議会 事実上一應閉会したものというべく、所論のように延会若しくは流会したものと観るべきではない。從つて、議長たるもの、その後前敍連記無記名投票の法律上到底許すべからざるものあることを後れ走せながら悟り、この方法による投票実施を取止め、新たに、これと、全然別個の方法により同選挙を行うには、須らく新たな審議案を立てて予め、これを前敍退場帰宅議員等に十分了知させると共に、これらの議員達が再審議に出席するに十分な予猶時間を措いてこれらの議員を招集する手続を採らねばならない。地方自治法第一〇一條第一〇二條、靑森市議会会議規則第一五條、第一八條、第二六條、第三〇條、第三一條が普通地方公共團体の議会において各議員が自己の意思を十分、披〓し又は反映させ、その職責を全うすることができるよう、詳細多岐に亘る規定を設けた所以のものも亦実にここに存するものと、解さねばならない。

然るに、同議長は、反議長派議員十三名が議場から退離戻家後、間もなく同議員等に、單に「靑森市選挙管理委員の選挙につき、決定したいから、本日午後七時までに出席されたい」とだけ記載した催告状を発し、同日午後七時五分再開、出席議員十八名(内議員中村民一は、当初の会議に出席せず再開後の会議にのみ出席した。)議会が、本件委員及び補充員を同議長の指名推薦により選出するにつき議員中に異議を唱える者がないものと認め、この方法を採用することに決し、同議長が原告等主張の人達を、それぞれ、靑森市選挙管理委員及び補充員に指名し、被指名人達を、当選人と定めるかどうかを会議に諮つたところ、議員全員が、これに同意し、よつて以て本件選挙は一應終了し、再開後の議会が閉会するに至つたことは当事者間に爭がなく、敍上催告状を発した時刻は同日午後五時三十分頃であつたこと及び再開後の議会に出席した議員十八名が何れも議長派、即ち「市政同志会」に所属していたことは、成立に爭がない甲第二号証、証人柿崎酉松(第一、二回)の各供述及び原告本人奈良源藏(第一、二、三回)羽賀銀次郞各訊問の結果を綜合して、これを窺知するに足り被告の挙示援用に係る全証拠を以てしても右認定を左右することができない。

思うに、前敍縷説のような経緯の下に議場に留どまり、法律上不能無効の連記無記名投票に澁々協力するを潔しとせず蹶然起つて議場から退散した反議長派議員十三名に、敍上のような曖昧簡單な語句を記載したに止どまる催告状を発しただけでは、仮りにこれらの議員が、該催告状を適当な時期に受領して一読することができたとしても、議長が果して「既に可決された連記無記名投票を強行実施する趣意か」又は「かような投票が法律を不能無効であることを知得悔悟し、これを取り止め、新たに他の方法を提案審議する趣旨であるか」は全然不明で、否、素直にこれを憶測すれば、連記無記名投票を追行実施する趣旨を解するより外なかつたからこれらの議員は依然第二次議会に出席するを、肯んじなかつたであろうし、又その肯んじなかつたことは寧ろ当然で、この場合、これらの議員の過責を云爲するは穩当ではない。そして、今、若し該催告書に、連記無記名投票はこれを取り止め、新たにそれ以外の選挙方法を提案審議する趣意が何人にも窺知し得る程度に表示されてあつたならば、これらの議員は、必ずや新議会に出席していたであろうことは容易に看取することができる。蓋し、所謂指名推選は、議員中に一名でも、これに異議を述べる者がある場合には、全然この方法によるを許さない(地方自治法第一一八條第二項)から、今若し反議長派議員が一名でも、出席していたならば、議長派議員達から指名推選動議が提出されても、必ずや、これに異議を挿み、この方法による選出を不能にし、竟に、唯一の残された方法であり、且つ自派に頗る有利な方法である單記無記名投票に落ち着かせることができることは、極めて、容易に想像し得る所であるからである。

加之、前敍のように同日午後七時まてに会議に出頭すべき旨記載された催告状が反議長派議員等の住居に向け発送された時刻が同日午後五時半頃である以上、該書面が右各住居に到達され各議員においてこれを受領一読の上、出席の決意を固め議場に到達するまでの間には相当時間を要することは洵に見易き道理であるから、本件出席予告時間としては、一時間三十分間は到底短かきに失する感を免れない、蓋し前敍のように議場から一齊に退出帰途に就いた議員中には、そのまま帰宅せず、途中他人を訪問したりなどして、意外の時間を費し住居に帰着時刻が相当後れる者もないでもなかつたであろうし、又そのまま帰宅した議員でも帰着後、直ちに議場に引換えすことについての決意及び準備に多少手間取るは寧ろ当然で、且つ一般に夜間の出頭は晝間のそれに比し、若干遲滯するを免れないことは常識であるからである。殊に証人柿崎酉松(第一、二回)の各供述を綜合すれば、前顯退場議員十三名中の一名である柿崎酉松は、本件議場たる靑森市寺町四十六番地靑森市議会会議場から約一里半離れた、同市大字油川字浪岸二十六番地に居住し、当時夜間且つ雨天のため、車馬の便を全然欠如していたから、徒歩によらざるを得ず、そして、自宅から徒歩で会議に到るには、少くとも一時間二十分を要したところ、敍上催告書が同議員の留守宅に送達された時刻は同日午後六時二十分頃であつたことを肯定するに足り、被告の全立証を以てしても右判断を覆することができない。果してそうだとすれば、仮りに同議員が右書面送達当時在宅していたとしても、同日午後七時までに、会議場に到着出席するは到底不能であり、同議員に対する出席予告期間は著しく短きに失し、かような期間の指定は到底違法たるを免れない。即ち同議長が敍上のような短い出席予告期間を定めた客観状勢から押すときは、当初から退場議員十三名の再出席を殆んど期待していなかつたのではないと思われる。

しかも、第二次会議に議長派議員十八名のみならず、今仮りに柿崎酉松外一名を除いた反議長派退場議員十一名も適時に出席審議したものとしても、議員柿崎酉松外一名が出席しなかつた以上、この議会で、行われた筈の單記無記名投票による委員及び補充員の選挙の結果に重大な影響があり、即ち議長派議員十八名は甲乙丙三名を委員(補充員についても理窟は同じである。)候補者に推薦して、甲乙丙に六票宛投ずることにより、候補者三名全員を当選させるさとができるに反し、反議長派議員十一名は丁戊二名を委員候補者に、推選して、丁に六票、戊に五票を投じてみてもこれ以上に有利な投じ方はないから精精、候補者一名だけを当選させることができるに過ぎず、この場合反議長派議員がなお一名出席して投票すれば丁、戊両候補者を当選させる可能性があつた(地方自治法第一一八條第一項、第五五條第二項)。依是観之、同議長のした敍上第二次会議の招集告知手続には重大な瑕疵があり、そしてかような瑕疵が、本件選挙乃至当選の効力に致命的波動を與えることが明かな以上、該手続を前提とする本件各決議も亦当然違法にして、到底取消を免れない。

次に法律が、議会で行う選挙につき、議員中に異議を述べる者がないこと及び被指名人を当選人と定めることに議員全員が同意することを條件として、特定人の指名推選を許容し、これに、一般投票による場合と同一の効力を付與した所以のものは、地方自治法第一〇九條乃至第一一一條所定の常任委員又は特別委員(なお衆議院及び参議院では、常任委員会の委員及び特別委員会の委員を、議長の指名だけで選任することができる。衆議院規則第三七條、参議院規則第一五條、第七九條)のような、その職掌、比較性、政治性、機会性を帶びると共に、概して主たる審議の附随補助事務に終始し任期も比較的短かく、その責務も概して單純軽微な役員を選出するには、議員全員の意見に抵触しない限り、相当嚴格、煩雜な手続を経なければならない。單記無記名投票によるよりも、議員達の信任する、特定人の指名推選に俟つ方が兎角簡易手軽で、和氣靄靄裡に、事が運び且つ事柄の性質上、さまで幣害を釀さず釀しても局部的で間もなく是正調節されるであろうと思惟したからであるけれども、眞の多衆民本主義から観ればこの制度は、なお甚だ不完全な選挙方法である。即ち普通行われているように、指名推選を委任する議員達が予め別室で衆議談合して候補者を立て、指名推選を委任された個人にされを告知し、これに盲從指名させるのでは、指名者は不明朗は私議密行選挙の傀儡に過ぎず、到底自由明朗な選挙は期待し得べくもない。さればといつて、指名推選を指名者の自由裁量に任せたのでは、指名者その人が如何程信賴することができる人物であつても、そこは人間、時に個人の独断は到底避け難い。議員自身がその選挙人の意図を議場で吐露反映しているかどうかが既に相当問題である昨今、議員から指名推選を一任された指名者が一般選挙民の意思を体得実行するであろうというようなことは凡そ望み得べくもない。結局指名推選は衆意をそのまま活かすことを使命とする民主議会の本來の姿ではあり得ない。論者、或は「指名推選を議長に一任した議員達が、議長のした指名推選に不満ならば、地方自治法第一一八條第三項により被指名人を当選者と定めることに同意しなければ足る」というかも知れない。しかし、当初議員中議長の指名推選に一任することに異議を述べる者が一名もなかつた以上(同條第二項)今更議長の指名推選行爲に兎角の論議を挿み、賛成を澁るというようなことは事実上有り得ない。この結果、指名推選においては、指名者その人の主観的意志乃至人柄が事態を決定的に支配し、「議員が指名推薦に異議がなかつた」、「議員が被指名人を当選人と定めるに同意した」というようなことは寧ろ枝葉末節でこれだけでは、直接選挙の場合同様、当選が議員の総意を反映しているものというを得ない。

況んや廣く民衆の意図おやである。そこで、指名推薦方法を施行することが成法の精神公共の福祉に副わないと認められる場合は、固よりこれを回避するを要し、敢てこれを運用するときは違法として取消の運命を免れない。

ところで均しく議会における選挙だとはいえ、本件選挙管理委員のように、各種民主主義選挙運営の、枢機に参画し、ある意味で、その母体の構成員ともいうことができ、その一挙手一投足すらも、直接又は間接に、選挙の動向に波及影響し、至公至平、虚心坦懷、超党派的心構えを堅持しなければ到底中正明朗、眞に新時代の精神を体現した選挙を運営することができない公務員の選出にあつても亦指名推選方法を施用することができるかどうかについては致命的疑問がある。

惟うに選挙管理委員が、その職務を執行するにつき如何に嚴正公平を旨としなければならないかは、選挙管理委員が成法上、選挙人名簿を調整、各種選挙又は当選の効力についての異議に対する決定、該決定についての訴願に対する裁決をしたり、該裁決に対する訴訟の被告(順合訴訟をしてはならない。)となつたりしなければならない点(地方自治法第六六條第六七條、衆議院議員選挙法第八一條第八三條、参議院議員選挙法第七三條)だけからこれを観ても極めて明瞭であるが、なお法律は特に委員の偏党化を防止し、公明正大にその職責を果させるため種々の特則を設けている。即ち地方自治法はその第一八一條以下十四箇條の法文を以て、普通地方公共團体の選挙管理委員会の組織、活動等につき詳細な規定を措き、就中、委員が親族に関する事件の議事に参與することを禁じて偏頗の挙措に出ないようにし、又委員及び補充員の任期を三年に延長して(前敍昭和二十二年十二月一日施行改正法律)その職域につき安定感を與えて成果を期待し、又同一の政党とその他の團体に属する者は一定の数以上、委員若しくは補充員となることを嚴禁している(地方自治法第一八二條第四項第一八三條第一八九條第二項。)この結果、例えば市町村選挙管理委員会の会議において出席委員が三名であるときは、内一名が委員長とならねばならないから(同法第一八九條第一項第一八七條第一項)議案の可否につき、他の委員二名が一致しない場合、議長の決する所によるを要し(同法第一九〇條)しかも、この場合でも委員長が、他の二名と同一政党又は團体に属することができないという程(同法第一八二條第四項)換言すれば文字通り一人一党主義で議事を行わねばならないという程、法律は委員の情実化偏党化の防止に躍氣となつている。蓋し、各種選挙の事実上の母体ともいうべき選挙管理委員会の構成委員自身が、既に一党一派に偏するようでは、出発の当初から既に相当禍根を胚胎し、その後如何にこれを拔本駆逐しようとしても源泉を淨めないで百年拱手河清を待つ惱みを如何ともすることが、できないからである。選挙管理委員の職責は敍上のように重且つ大である以上、その選出方法についても、かの各議会の常任委員又は特別委員のそれと同日に談ずるを許されない。

即ち、全國選挙管理委員会法第六條は、全國選挙管理委員会の委員の選挙につき所謂指名推薦方法を用いることを嚴禁し委員は國会議員数の比率により、これを選出しなければならない旨規定し、参議院議員選挙法第一四條も亦、全國選出議員選挙管理委員の選挙につき、所謂指名推薦制度を全然排除し、全國選出議員選挙管理委員は参議院において、一定の資格を有する者からこれを選挙する旨規定し、又全國選挙管理委員會法第四條、参議院議員選挙法第一五條、第一二條第二項、地方自治法第一八六條第二項等は、各種選挙管理委員会の指揮監督系統は、上下一体一系でなければならない趣旨を微に入り細に渉り規整し、凡そ選挙管理委員の選出方法に関する限り、その選出議会が國会たると、都道府縣議会たると、將た又、市町村議会たるとにより、その取扱を二、三にするを得ず、必ずやその規を一にしなければならない所以を含蓄、示唆している。

殊に、地方自治法第一八二條第三項は、選挙管理委員中に欠員が生じたときは、委員長は、補充員の中からこれを補充し、その順序は、選挙の時が異なるときは、選挙の前後により、選挙の時が同時であるときは、得票数により、又「得票数」が同じであるときはくじにより、これを定める旨規定するに過ぎず、又、地方自治法施行令第一三四條第一項は、同一政党その他の團体に属する委員又は補充員が、一定数を超過する場合は、その者の中から得票数により、又「得票数」が同一であるときは、くじにより、委員又は補充員たるべき者を定めなければならない旨規定し、何れも、選挙管理委員又は補充員が、唯、單記無記名自書投票(投票の方法で選挙する場合には必ず、この方法によるを要し、連記無記名自書投票によるときはその投票が当然無効であることは地方自治法第一一八條第一項第三二條第一項第四項、第四一條第四号により明白である。)により選挙された場合だけを詳細に規定し指名推薦により当選した場合につき一語も触れず、恰かも、我不関焉ともいうべき態度である。論者或は、指名推薦の場合は前敍「得票数が同一であるときは、くじにより、委員又は補充員たるべき者を定めなければならない。」という規定を類推適用すれば足るというかも知れない。しかし議員達が特定の人又は役職員に委員若しくは補充員の選定を委任する指名推選方法は、前來縷述したように本來受任者の主観的創意そのものにその重心があり、各議員の総意の如きは單に補充的、第二義的間接的意義を有すに過ぎず、否、受任者の自恣專断は、屡々議員の衆志を全然反映しない場合すらあるばかりではなく、受任者は指名に当り、被指名人に、少くとも、心理的には、順位を附け勝ちであり、又議員達自身も受任者の指名を是認する場合(地方自治法第一一八條第三項)被指名人に順番を附したい氣持が、なお、去り遣らぬは寧ろ普通であり、元々指名推薦は「單記無記名投票の獲得数が同一である場合」とは実際上、又法理上全然次元を異にすから固より同日の談ではあり得ない。

なお、衆議院議員選挙法第六九條第二項に「当選人ヲ定ムルニ当リ得票数同シキトキハ、選挙会ニ於テ選挙長抽籖シテ之ヲ定ム」とあり、又参議院議員選挙法第五六條第三項第六九條にもこれと同一の規定があり、この点は、地方自治法第一八二條第三項第四項、地方自治法施行令第一三四條に、選挙管理委員又は補充員の補充につき得票数が同じであるときは、くじにより、これを定める。」とあると全然同趣旨であり、しかも、衆議院議員又は参議院議員の選挙については、法律は單記無記名自書投票だけを許し、固より指名推薦などというような方法は絶対に、これを認めない(衆議院議員選挙法第二七條、参議院議員選挙法第二三條)。又「当選人を定めるに当り得票数が同じであるときは、選挙会において、選挙長が、くじでこれを定める。」という地方自治法第一一八條第一項第五五條第二項の規定は、選挙管理委員又は補充員の選挙が專ら單記無記名自書投票により行われた場合のみを前提とし、指名推薦等という方法により実施された場合の如きは全然これを予想していないものと観なければならない(地方自治法第一一八條第一項第三二條第四一條第五五條)。果してそうだとすれば、地方自治法第一八二條第三項第五項、地方自治法施行令第一三四條に選挙管理委員及び補充員の補充につき得票数が同じであるときは、くじにより、これを定める。」とあるは、單記無記名自書投票が、同じである場合にのみくじにより、これらの役員の補充を決定しなければならないという趣旨に過ぎず、これらの役員全員が、指名推薦方法により当選した場合については法律は寸毫も想像していない。若し眞に想定しているものとすれば必ずや「得票数が同じであるとき、又は、指名推薦の方法を用いたときは、くじにより、これを定める。」と明確に一句を挿入規定しなければならない。然るに、法律はかような接続語の措置を故更ら回避しているようにも観える。

以上、各種関連法規を嚴密に分析綜合し且つ実際上の利害得失を吟味参酌してその眞の在り方を探求すれば、選挙管理委員及び補充員の選挙は必ずや、議員の單記無記名自書投票のみによるべく、凡そ指名推薦方法によるようなことは、全然法律の予想しない所であり実際上又法律上到底許容し難い所のものと解さねばならない。

加之、今若し被告主張のように、本件選挙についても、亦、所謂指名推薦方法を用いることができるものとし、議長派議員等が本件第一次会議において、第二次会議でしたように、指名推薦方法採用動議を提出したものとすれば、どのような結果を齎らすであろうか。かような動議に対し、反議長派議員十三名が慊焉たらず、挙つて異議を述べたであろうことは上來認定の諸情勢、殊に、これらの議員が一致して單記無記名自書投票を強調した経緯に照し、極めて明瞭であり、そして指名推薦方法は議員中に一名でも異議を述べる者があるときは法律上、これを用いることができないから(地方自治法第一一八條第二項)本件選挙につき、指名推薦方法を用いることが、できないとは、既に第一次議会において、確定していたものといわねばならない。この結果、本件選挙は、成法上、必然、單記無記名自書投票によるの外なく、そしてこの方法を用いれば、反議長派議員十三名からも委員及び補充員各二名(定員は各四名)を推薦当選させることができたことは、前段認定の通りである。

然るに第一次議会において、法律上許された唯一の選挙方法たる單記無記名自書投票案が数を頼む議長派議員等により葬り去られ、逆に、無暴にも法律上不能の連記無記名自書投票案が可決され、議員等に、投票用紙が配布されたから、ここに反議長派議員十三名は、かような方法による選挙を潔しとせず、余儀なく、一齊に退場離散するや、議長派議員等がこれに乘じこれらの退場議員に、第二次議会に出席して、審議に参與するに足る準備期間及び資料を提供せず、自派議員十八名だけの出席の下に第一次議会においては到底実現が不能であつたであろう所の、指名推薦方法採用案を全員が一致して可決完遂したのは、地方自治法第一一八條第二項に所謂、指名推薦方法採用是認決議及び同條第三項所定の被指名人当選同意決議の著しい濫用であるといわねばならない。

以上要するに、本件各決議は、(イ)本件委員及び補充員の当選に、重大な影響を及ぼす前敍招集告示手続を経ないで開かれた第二次議会において爲され、又、(ロ)成法上の根拠を欠如し、且、(ハ)仮りに欠如していなかつたとしても議会の指名推薦権能に関する決議権の濫用であるから、他に格段の事情がない限り、以上、何れの点から観ても到底違法として取消される運命を免れない。

よつて最後に公共の福祉不適合の抗弁につき一考するに、本件指名推薦手続により靑森市選挙管理委員に当選した相馬甚之助、金原五隆、武田信太郞、〓田担三等四名が当選後、昭和二十三年十月五日施行された靑森縣敎育委員会委員六名の選挙、同月二十日施行された靑森市農地委員補欠一名の選挙、同年十一月三十日施行された靑森市農業調整委員十五名の選挙、昭和二十三年一月二十三日施行された衆議院議員第一区四名の選挙に際り、何れも靑森市選挙管理委員として眞正の委員に法令で認められた職務を執行したことは、証人相馬甚之助の供述によりこれを肯定するに十分で、右認定を左右し得る何等の証左がない。けれども、前顯重大な瑕疵がある指名推薦手続により当選した選挙委員の職務執行により、敍上各選挙が爲されたからとて、敍上各選挙又は当選が当然無効となるのではなく、選挙人又は候補者等において、更に敍上各選挙が重大な瑕疵がある指名推薦手続により当選した選挙管理委員の職務執行により施行されたことを原因として選挙無効訴訟又は当選無効訴訟を提起し、該訴訟の結果を待たなければ、本件指名推薦手続の瑕疵と敍上各種選挙又は当選の効力との因果関係が判明しないわけであるけれども、これらの訴訟においては、(イ)出訴訟期間徒過の有無(例、衆議院議員の選挙訴訟又は当選訴訟については衆議院議員選挙法第六六條第四項第八項所定の出訴期間遵守の有無)及び、(ロ)選挙管理委員の選定手続に存する重大な瑕疵を原因として敍上各種選挙又は当選の無効を宣言することが公共の福祉に適合するかどうかが、当然問題となり得るから訴訟の結果は今遽に、逆賭することができないものがあり、他方、普通地方公共團体の選挙管理委員の任期は三年(昭和二十三年十二月一日施行同年法律第二一六号)であるから、今若し、本件訴訟の提起がなかつたとすれば本件選挙委員四名が昭和二十六年九月三十日まで、その職務を執行するであろうことは想像するに難からず、そしてこれらの人逹が選挙管理委員として、その職務を執ることは前段説明の理由により違法不当である以上、今かような危險を孕らんだ雰囲氣を、そのまま放置して毫もその善後策を考えないことは公益の建前から観ても固より妥当ではないから、本件指名推薦手続上の各決定を取消したからとて、必ずしも公共の福祉を保持增進する所以に背戻するものと断ずることができないであろう。

よつて原告等の請求を理由があるものと認め、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一條、民事訴訟法第八九條第九五條に則り主文のように判決する。

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